『今日のアナタは1日ハッピー♪その幸せを大事な人にお裾分けしようという気持ちでいると、より幸運が舞い降りてくるかも!』


柄の悪そうな男3人が食い入るように――いや、実際にそうしているのは1名のみだが――テレビを見ている。この3人、柄が悪く見えるのは当然で、堅気ではない。つまり、“ヤクザ”だ。そんな3人が占い番組を真剣に見ているのは何故か?もちろん、文句をつける・・・・・・わけではない。


「聞いたか、ヤス!!これは、お嬢の傍を離れるな、ってことだな!!」

「はぁ・・・。」

「若頭。次、行きますぞ?」

「おう!」


完全に占いを楽しんでいる。しかも、その番組だけでなく、その他の番組の占いまでチェックしているようだ。


『今日の貴方は独りよがりになりがち。今日は恋人とも距離を置いた方が良さそう。』

「ヤス・・・。あとは頼んだ・・・。」

「は?何言って・・・。」

「俺は今日、お嬢には近づけない・・・。」


さらに、唯一真剣に見ていた男は、この占いを心の底から信じているようだ。だが、番組によって、こんなにも結果が違うのだから、そこまで一喜一憂する必要は無いだろう。
何にせよ、この男は後者の占いを信じ、落胆してしまった。


「でも、お嬢は若頭の恋人じゃないっすよ?」

「あぁ、お嬢!今日は、お嬢の身に何事も起こりませんように!!何かあっても、俺は・・・俺は・・・!!」

「って、若頭・・・。話聞いてないし。」

「仕方ねぇよ、ヤス。こうなった若頭は、放っておくしか・・・。」


呆れつつも、この状況に慣れきっている男たちは、苦笑いをしていた。そして、そこにこの男たちとは無縁そうな、至って普通の可愛い少女がやって来た。


「あ、2人とも、おはようございます。」

「「お嬢!おはようございます!!」」


男2人は、その少女に声をかけられると、途端に背筋を伸ばし、礼儀正しく挨拶をした。この少女こそが、先ほどから何度も話題になっている『お嬢』だ。つまり、この少女は普通などではなく、この組――虎桜組の組長で、名はという。もちろん、元は普通の学生だったのだから、組長になりたくてなったわけではないが・・・・・・。この件にはいろいろと細かい事情があるので、今回は詳細を省くことにしよう。さて、さっきまで落ち込んでいた男だったが、このの声を聞いて、すぐに逃げようと立ち上がった。しかし、当然だが、すぐに見つかってしまった。


「龍さん!おはようございます。」

「あぁ、お嬢・・・。おはようございます・・・。」

「・・・?どうしたんですか?何かあったんですか?」

「いえ、何も・・・。」

「龍さん・・・?」

「すみません、お嬢!!」


そう言うと、占いを信じきっている男が走り去った。この男の名は、那由多龍といい、十数年前に虎桜組に入ってから次々と頭角を現し、今では組を取りまとめる若頭になった。故にこの中で、この男を名前で呼ぶ者は、組長であると、組の財政を管理している朝生義之ぐらいだ。


「ど、どうしたんですか、龍さん・・・。」

「いつものことです。放っておいてください。」


そう言った、『ヤス』と呼ばれていた男の名は遠藤康成。そして、もう1人の大男は山木冨美男。


「でも・・・。」

「明日には戻って来ますから。」

「明日?!」


ヤスと山木は、相変わらず無関心といった様子だった。しかし、最近ここに来たばかりのにとっては、心配なようである。


「あの・・・。私、龍さん捜してきます!」

「「えっ?!」」

「みんなには、いつものことなのかもしれないけれど・・・。私にとっては、初めてなので・・・。だから、捜してきます。」

「お嬢!!」

「なんと、お優しい!!」

「「俺たちも一緒に行きます!!」」


2人は感嘆の声をあげ、について行くことを決心した。しかし、先ほども言ったように、彼らは見た目からして、堅気でないことは明白。そんな人物と、という外見からは組と関係の無いように見える少女が一緒に行動しては、あまりに不自然だ。


「あ、あの・・・。1人で大丈夫です。」

「いえ!俺たちにとっては日常のことでも、お嬢の為なら!!」

「それに、お1人では危険ですぞ?!」

「えぇっと・・・。」


もちろん、彼らは見た目こそ、やや問題があるかもしれないが、心は優しい人物ばかりだ。これも親切心から言っていることなのだが、当のが困ることになるとは思っていない。その親切心も無下にはできないと、は余計に困惑している。


「僕が行こうか?」


そんな中、これまた至って普通の少年がに声をかけた。


「天音くん!」


この少年の名は天音京吾。京吾はとは同級生で、同じ委員もしているが、もちろん彼も普通ではない。虎桜組の見習いみたいな者だ。


「学校がある日は、僕が一緒に行ってるんだし。」

「・・・うん、そうだね。そうしてもらおうかな。ごめんね、天音くん。」

「いいよ。」


というわけで、2人は龍を探しに出かけた。
そして2人は、近くの電柱の前で、いじけて座り込んでいる龍の後姿をあっけなく見つけてしまった。京吾も呆れて、思わず少しため息を吐いていた。
しかし、は龍を見つけられた安堵からか、ため息ではなく、ほっと息をついていた。そんなを見て、京吾は少し微笑むと、龍には聞こえないように、そっとに声をかけた。


「よかったね。すぐに見つけられて。」

「うん!」


は嬉しそうに笑い、静かに龍の方へと近付いた。


「龍さん。」

「・・・!!お嬢・・・!」


突然、後ろから名前を呼ばれた龍は、慌てて振り返った。そして、その声の主が予想通りの人物であったことを確認すると、急いで立ち上がった。


「ど、どうして、ここに・・・!」

「龍さんのことが心配だったから、です。突然出て行かれて、気にならないわけがないじゃないですか。」

「お嬢・・・!!」


優しいの発言に、先程のヤス・山木同様、龍も感嘆の声をあげた。それでも、占いを信じている龍は、自分を捜しに来てくれたに、おいそれとはついて行けなかった。


「お嬢・・・。お嬢のお気持ちは非常にありがたいのですが・・・。俺は今日、お譲の傍にいては駄目なんです・・・。」

「どうしてですか・・・?」

「それは――。」


龍は今朝見た2つの占いの結果を話した。もちろん、『恋人』などという言葉は、龍の都合で『大切な人』に言い換えられていた。
そんな話を聞き、も内心は「占いのことで?!」と驚いているようだったが、龍があまりに真剣に話すので、黙って聞いていた。


「・・・ってわけです。」

「そうだったんですか。・・・でも、龍さん。1つ目の結果は良かったんですよね?だったら、私にも幸せを分けてください。」

「しかし、お嬢・・・。俺が独りよがりになってしまうことだって・・・。」

「少なくとも、龍さんが居ないところに私の幸せは無いと思います。」

「お、お嬢・・・!!!」


がニッコリと微笑むと、龍は途端に表情を明るくした。周りから見れば、かなり良い雰囲気になっていることは明白である。しかし、そこで誰かが咳払いをした。・・・誰かとは、当然、と一緒に来ていた京吾だ。京吾もを大切に思っている1人であり、龍との様子を見ていて気持ちがいいものではなかったのだろう。


「さぁ、帰ろうか?」

「そうだね、天音くん。龍さんも、帰りますよね?」

「もちろんです、お嬢!」


そして、同じように考える奴の数は、組に戻れば更に増える。


「お嬢!お帰りなさいませ!」

「おぉ、お嬢!ご無事でしたか・・・!」

「お嬢。お疲れではありませんか?何かお作りしましょうか!」


そんな彼らの対応に追われているに、龍はちゃんとしたお礼も言えずにいた。それを不満に思い――と言うか、ただと話せなくて、拗ねているだけだが――龍は部屋の隅に座り込んでいた。
は、せわしなく皆への対応もしつつ、そんな龍の様子も目に入れていたようだった。何かと声をかけてくれる組員1人1人に、食べたいものなどを伝えて用事を頼み、その場から龍以外の組員をどこかに行かせた。そして、は拗ねている龍へ声をかけた。


「龍さん。これからは、勝手に出て行ったりしないでくださいね?」

「お嬢・・・。今日はご迷惑をお掛けして、すいませんでした・・・!」


龍はやっとと話せる状況になっていたことに気付くと、パッと表情を変えて立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。


「いいんですよ。私が捜したかっただけですから。でも・・・、本当に心配しました・・・。」

「お嬢・・・。そういえば、さっきも・・・俺が居ないところにお嬢の幸せは無いって・・・。」

「当たり前です。今じゃ龍さんの居ない生活なんて、考えられませんよ。」

「お嬢・・・!!それは、俺とて同じことです!!今じゃなくとも、昔から、俺にとってお嬢は大切な人です!」

「だったら、これからは、こんなことは無しですよ?」

「・・・承知!この龍、如何なる理由があろうとも、お嬢の許可無く組を抜けることはしないと誓います・・・!」

「はい。是非そうしてください。」


に笑顔でそう言われ、龍が満足げににやけていると、「お待たせしましたー!」と用を頼まれていた組員が早くも、この部屋へ戻ってきた。


「くっ・・・。お前ら・・・。もうちょっと、・・・。」

「お嬢。どっちにします??一応、山木が2種類作ったんでー・・・。」


さらに、龍が文句を言っているのにも気付かずに、ヤスはに説明を始めてしまった。


「ヤスー・・・!!!」

「わ、若頭・・・?!」

「お前は空気を読めー!!」

「うわっ・・・!!何をそんなに怒ってるんすか!・・・で、なんで追いかけてくるんすかー?!!」


結局、ギャーギャーと騒ぎ始めてしまった彼らを見て、は楽しそうに微笑んでいた。そこへ、京吾がやって来た。


「大変だね、あの2人。」

「ふふ。でも、今じゃ、あの光景が日常だから。龍さんだけじゃなくて、誰も欠けてほしくないんだ。」

「・・・そういうことだったんだ。」

「ん?」

「いや、何でもないよ。」


の「龍が居ないところに幸せは無い」という発言が少なからず気になっていた京吾は、その言葉を聞いて安心していた。
一方、龍は自分だからこそ、がそう言ってくれたのだと考えており・・・。


「今から俺は、お嬢と愛を確認するところだったんだからなー・・・!!」


ヤスにそんな言葉を投げかけていた。ヤスはそれを聞く余裕も無く、逃げ回っていたが。
しかし、そんな彼らの様子を見ていたには、その言葉をはっきりと聞かれていた。


「龍さん、それって・・・。」


龍は、のその声でハッと我に返り、ピタリと立ち止まった。


「お、お嬢・・・?!いや、その・・・。そ、それは・・・。」

「やっぱり、龍さんって・・・。」

「!!!」


自分の気持ちに気付かれていたのかと思い、龍は更に体が固まったように動かなくなった。


「そんなに虎桜組のことを大切に思ってるんですね。」

「へ・・・?」

「だって・・・、私と『組への愛』を確認するって言いませんでした?」

「え?いや・・・、その・・・。はい、そう言いました・・・。」


気付かれていなくて良かったという安心と、でも気付いてほしいという落胆から、今度は龍の背が丸くなってしまった。それを見て、周りの京吾やヤスは、吹き出していた。に想いをわかってもらえるのは、なかなか難しそうである。
・・・が、それは京吾やヤスにも言えることだ。


「まぁ、そうなんだけど・・・。」

「そこで、そんなことを言わないでほしいっす・・・。」

「・・・どうかしたんですか?」

「いえ。何でもないっす、お嬢!でも、俺は頑張りますよ!」

「僕も何でもないよ。でも、僕も頑張るから。」

「??」

「俺だって、頑張りますからね!お嬢!!」

「龍さんまで・・・。・・・・・・やっぱり、皆さん、この組のことが好きなんですね!虎桜組のために、できる限り私も頑張ります!」

「「「・・・・・・。」」」













 

このゲームは、体験版からとても面白かったです!普通に笑えるシーンが多かったです。それこそ、年齢制限的描写が無くてもいいと思うんですよ。だから、PS版とかで出ればいいのに・・・とか思ったり★とにかく、どのキャラも素敵で、大好きです!
・・・そんなわけで、龍さんをメインで書こうとしていたのに、つい京吾くんとヤスさんも出しまくっちゃいました!(汗)むしろ、書けるのなら、全員出したかったぐらいです!
と言うか、ヤスさんを出した時点で、『恋恋三昧』の方になるのかなぁとも思いましたが。まぁ、深くは気にしないでください(笑)。

もちろん、このゲームも、私は本編を知りません。体験版で、占いについてのシーンがあったので、こういう展開になってもいいんじゃないかなぁと、勝手に書いたものです。
おそらく本編では、特に京吾くんがこんなキャラじゃないと思いますが・・・・・・その辺りも、ご勘弁いただきたいと存じます!

('08/09/19)